大判例

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京都地方裁判所 昭和26年(ワ)899号 判決

原告 西原株式会社

被告 秋山晃

一、主  文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告代理人は、被告は原告に対し、金十六万三千七百五十円及びこれに対する本件訴状が被告に送達された翌日である昭和二十六年十月十二日より支払済に至るまでの年六分の割合の金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とするとの判決並び担保を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、原告は織物の売買を業とする商事会社であるが、昭和二十五年十一月十八日、訴外大塚柳治を介し、被告に代金は二日後に支払を受ける約定で、人絹壁広巾五〇ヤール物五十疋を、金十六万三千七百五十円にて売渡した。然るに、被告は右代金を支払わないから、その弁済と、弁済期後の年六分の遅延損害金の支払を求めるため、本訴に及んだと陳述した。<立証省略>

被告は原告の訴を却下するとの判決を求め、本訴は先に当庁において判決のあつた、昭和二十六年(ワ)第二二三号約束手形金請求事件と請求原因を同うし、二重訴訟であると陳述し、本案につき、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、原告が本訴の請求原因として主張する事実は全部否認する。原告主張の物件は訴外大塚柳治において買受けたのであると陳述した。

三、理  由

被告は本訴請求は、先に判決のあつた当庁昭和二十六年(ワ)第二二三号約束手形金請求事件と、その請求原因を同うするから、二重訴訟であると主張するが、二重訴訟の禁止は、裁判所に繋属する事件については、更に訴を提起することを当事者に禁じたものであるから、被告の意とするところは本訴は当庁昭和二十六年(ワ)第二二三号約束手形金請求事件とその請求原因を同うし、同事件の既判力により、利益なき訴訟であるとするものと解せらる。そうして職権調査の結果によると、右約束手形金請求事件は、手形金の請求であり、本訴はその手形授受の原因関係である、売買取引上の債権に基く請求を主張するものであることが明確であるから、両者は請求原因を異にし、同一訴訟であると認めることはできない。従て被告の本案前の抗弁は理由がなく、排斥を免れない。

仍て本案に入つて審理するに、原告は被告に対し、人絹壁広巾五〇ヤール物五十疋を売渡したと主張するが、真正に成立したものと認める甲第一、二号証によれば、被告は訴外藤本菊治郎山本克郎等と共に、第一織物株式会社を設立し会社名義を以て営業に従事していたもので、同会社は未登記ではあつたが、同業者間においては営業の主体と目されていたもので、その取締役社長名義を以て、昭和二十五年十一月中頃、被告が本件織物を原告より買受けたものであることが認定できる。原告は被告が個人の資格において、本件売買契約を締結したものであると主張するが、第一織物株式会社の仮名を以て、被告個人が契約を締結したものであることは、これを認めるに足る証拠がない。尤も会社はその設立登記をしなければ、法律上成立しないもので、権利義務の主体としての人格を有しないことは、商法第五十七条によつて明瞭であるから、未登記の第一織物株式会社は会社として人格を有するものでないことは勿論であるが、前説示によれば、一個の独立した組織的単一体を組成しているからその組織体を構成する各個人とは、別異のものであると言わねばならず、独立して権利を有し、義務を負担することができるもので、本件の売買契約も、その人格なき組織体が締結したものと解する。但し人格がないものであるから、その名において権利を有し、義務を負うことはできないから、財産(積極消極ともに)は、総てその代表者秋山晃に信託せられ、代表者は信託事務を処理するため、自己の名において、未登記会社のために、権利を有し、義務を負うものとしてなければならない。従て原告は第一織物株式会社に対し訴を提起するには、被告を相手方としなければならないとは言え、被告個人の債務を訴求する場合とは異なり、被告に信託された財産権の範囲に限局して、請求権を行使し得るもので、被告も敗訴の場合、その信託された財産を以てのみ弁済の義務があるもので、自己の本来の個人財産を以て弁済の義務に服する必要はないのである。

叙上説示する所に従えば、原告は第一織物株式会社に対する売掛代金を請求するためには、被告を相手方としなければならないが、単に被告個人の全財産より弁済を受ける目的を以て訴を提起すべきものでなく、第一織物株式会社の財産を信託された被告として、訴求しなければならぬ筋合であるから、本件において、単に被告個人が売買の相手方であつたとして、その代金の請求をしたのは不当であり、これを認容する限りでない。そこで原告の請求はこれを棄却しなければならないものとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条を適用し、主文の如く判決する。

(裁判官 箕田正一)

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